バニラココア

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まあ、なんというか。まさかファミレスでこんな人間ドラマが見られるとは思わなかった。それも時間が短い分、あまりにも濃い内容だった。 わたしは残り少ない野菜ジュースを口に運んだ。そのまま、男の方にさりげなく目線を移すと、スマートフォンを握り締めて、指を滑らせていた。しかし、やがてその指が止まったと思うと、スマートフォンをテーブルに投げ出した。ガタン、というノイズが響く。おおかた、さっきの女に連絡を取ろうとでもしたのだろう。 女の方は言いたいことを言って多少はすっきりしたのかもしれないが、いま、わたしの隣のテーブルに一人取り残された男の方は、目を真っ赤にしている。きっと、誰かを好きになるという、その気持ち自体は間違っていないし、悪いものでもないのだろうが、彼の場合はそのアプローチの仕方に難があり過ぎたのだ。 わたしがそう思案している間に、男はよろよろと上着を着て、伝票と女が置いていった千円札を手に、レジの方へ歩いて行った。どうでもいいけれど、あの千円を使って会計するつもりじゃないだろうな。あれだけコテンパンにされて、そんなことができるようなら、きっと次の恋なんてすぐに見つかると思うが。
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