本編

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  ◆◆◆  新年の祝賀ムードも佳境だった。  平時の夜、仕事を終えた僕は新品の外套を羽織り、都心部の商店街へ買い出しに来ていた。例年にはない寒波が襲来しているとのことで、身を刺すような風が首筋を撫でる。  商店街には連日の大騒ぎに疲弊していたような空気があった。  ものは売りたいが、余計な手間は省きたい。そんな気だるそうにカウンターに座る服屋の店主が目に付いた。もとからああだったのかもしれない。  この喧騒とも静寂ともいえない具合が僕にはちょうど良かった。ストレスも感じず、寂しさも覚えない。  変色しきったタイルを歩く。赤、白、青と並ぶ自動販売機の横を抜けて、目的の食品量販店へ向かおうとしていた。その時だった。  道沿いのベンチに横たわる男がいた。  それ自体はよく見る光景であり、普段なら、不用心だとしか感じない。  しかし。  明滅する視界、フラッシュバックする記憶。思わず立ちくらみのような錯覚を覚え、足を止めずにはいられなかった。見覚えがあった。例えるなら、人間とホームレスは全く別の生物で、そこへ進化する過程にあるかのような、少なくとも人からは一歩踏み外した風貌の、人間。  この低気温にも負けず生身を晒し、すやすやと寝息を立てている。背丈は縦に長く、ボロボロのコートに袖を通していた。  テレビで、あの番組で見た。世界への発砲をあきらめたままの男が、生きたまま目の前にいた。  彼の動向を10秒ほど見ていた。男も視線に気が付いたのか、むくりと起き上がり、こちらを見遣った。  目をそらそうとするが、その前に男が声を上げた。 「なんか用か?」  息が詰まりそうだった。 「……。あなたを、テレビで見たことがあります」  男はいぶかしげな眼をしている。無理もない、見も知りもしない人間からいきなり存在を認知されているのは誰からしても愉快なものではないだろう。  少しして、考え込んでいた男も何のことかは心当たりがあったらしく、どちらかといえば、よく覚えているなぁと僕に感心した表情を見せた。
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