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「国民拳銃の使い道、どうされたんですか」
ここまでが僕なりの挨拶のつもりだった。
僕とも虚空ともいえぬ何かを見つめているような目つきだった男は、ゼンマイを回された機械人形のように巨体を揺らした。電気が点いた。大事なことを思い出したのか、使命に燃えた目を僕に向けた。これは今着火したのか、火種が残ったままだったのか僕には判別できない。
「失った家族を取り戻すために使う。そう決めた」
「と、いうことはまだ見つかってはいないんですね」
男はそれ以上何も答えなかった。
自分で蒔いた種であることはわかっていたが、これ以上いたたまれなくなった僕は小さくお辞儀して、その場を立ち去ろうかと思った。
ポケットから、ポリ袋の端が覗かせていた。証拠品を保管する検察官さながらの、無愛想な透明の袋。
男は僕の意識にきがついたらしく、ついでだ、と小さく呟いてポリ袋取り出してくれた。
ボロボロの封を外から見る。水の無いアクアリウムの中に、古い写真があった。男と、女性と、中学生くらいの女の子が、水族館で肩を組んでいた。
男にとっては時が止まったような一枚なのだろう。妻、娘だと思わしき人物を含む3人がカメラに向けて、幸せそうに笑っている。
中心で笑うその女の子は、光木に似ていた。
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