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「だから決めたの。こんな銃、私は絶対に使わないって」
最後の光木の台詞には、後悔も、決意も、悲しみも、勇気も何もかもが詰め込んであった。殺意も例外ではなかった。彼女の殺意は、国民拳銃そのものに向けられていた。
返す言葉がない僕には、空を見上げることしかできなかった。建物と建物の間を結ぶように電線が入り乱れ、白い空は太陽を覆っている。
何か。何かを繋げないと。相槌、同情、驚愕、沈黙もまた反応。大富豪で負けた時のように僕の手元には切れるカードが大量にあるが、このゲームを覆すことができない。
このまま世界が止まってしまえばいいのに、と追い詰められた僕は泣いて走り出したいところであったが、思わぬ助け舟が世界を回すことになる。
先ほど素通りした魚屋だった。
店頭の鮮魚を狙っていた野良猫が、案の定、計画を行動に移していたのだ。四肢を駆使して、軽やかなステップで陳列棚から飛び降りると、一目散に駆けだした。口元に一尾の魚をぶら下げて。
居眠りをしていた店主はその野良猫に気が付いたらしく、履いていた長靴を脱ぎ、裸足で駆けだしていた。
何か怒号を発しているが、何と言っているのかは判別できない。漫画のようなコミカルな一幕だった。
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