19人が本棚に入れています
本棚に追加
「皆さん。このたびはご成人おめでとうございます」
液晶画面の向こうではハレ着姿の若者達が、緊張した面持ちで市長の言葉に傾聴していた。
背広姿で壇上にあがる市長は挨拶の後に黒ぶちのメガネをかけ直し、呼吸を整える。まだ若手と呼べる年齢だった。
「一昔前とだいぶ変わっちゃったよね。成人式って」
夕ご飯の後片付けをしていた母が、テレビ画面に目線もやらずに口を開く。
「なんだか、妙に辛気臭い感じになったというか。羽目を外してやろう、っていう顔をした子がいないんだよね」
「テレビには映らないだけなんじゃないの」
「テレビに映らないから問題なのよ。みんながみんな優等生なわけがないじゃない」
母の指摘はもっともだった。
先ほどからカメラが捉える新成人は、男女問わずに画一的だった。学生時代に生徒会役員を務めていたような、名のある大学に在学することを義務にしていると言わんばかりの聡明そうな人間ばかりだからだ。ショーケースのマネキンを見ている気分だった。
その右隣には金色な袴(はかま)に猛獣のトサカのような髪型をしつらえた男もいるが、頑なにカメラはそこにピントを合わせない。
母の言う一昔前には、こうやって奇抜ないで立ちの若者を、からかい半分にインタビューしていたような気もしないこともなかった。
僕はテレビの音量を上げた。
「時代だろうね。今どきはこういうプロパガンダがないと。新成人はみな、真っ当な人間であることを宣伝しなくちゃいけないんだろうね」
「今年からだったかしら」
母は水道を閉めてテレビ画面へ向いた。
最初のコメントを投稿しよう!