本編

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 そこで一度成人式の映像は途絶え、改まった顔の市長がスピーチを始めるところまでカットされた。 「それでは、今年度からの法案により、対象年齢が引き下げとなった20歳の新成人へ『銃与式』を行います」  海外で実銃を撃ったことのある人はいるだろう。それは海を渡らない限り体験できるものじゃない、というのは21年前までの話だった。  20年前に制定された法律により、高所恐怖症でも船酔いが激しくても日本以外の土を踏むことにアレルギー反応がある人にも、僕たち国民は一生に一度、「拳銃を撃てる」権利を与えられた。  新成人の代表と思わしき男性が壇上に上がる。うっすらとストライプが入ったスーツは、今日のために買ったかのようにきれいな状態だった。新品の匂いがこちらまで伝わってきそうだ。  市長の手元では、盆にのせられた「国民拳銃」が照明を反射して銀色に光っていた。それは銃と呼ぶにはあまりにも簡素なつくりだ。どちらかといえば鉄砲のような工具、といった印象の鉄の塊であった。  マイナーチェンジは繰り返されているようだが、構造の根底は何一つ変わっていない。無愛想な、銃弾を水平に撃ちだすだけの装置。単発装填式で、引き金のカバーのすぐ真上に銃口が来るデザインだ。 「今、皆様に手渡されるのは『第三の権利』と呼ばれるものです。これ以外に、わが国独自規格の銃弾が一発ずつ支給されます」  国民拳銃の授与が終わり、市長はまたマイクを手に取った。 「この銃弾はみなさまが生涯で一度だけ発砲することが許可されています。市役所に申請を出したのち、3日以内にお届けします。その後、1か月以内に発砲の後に市役所に返却ください。発砲しなかった場合の返却は認められます。期限を過ぎてしまうと重罪に問われます。また、他人の銃弾を強奪する等で2発目以降の発砲を行った場合も同様となるので、くれぐれもご注意ください」  新成人たちが固唾を飲んだのがわかった。昨年までは25歳からの権利だったのに、今年から年齢が引き下げになってしまったのだから無理もない。酒やタバコと同じようには考えられないだろう。
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