萬『八百屋』

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校舎の奥の空き教室に入ると、タケは後ろの席にいた。早く来てと言っときながら、タケは机に伏せるようにして寝ていた。 そういや、昨日タケは飲みに行ったのかな?でもその割には早く来てるし。寝てるけど。 「あ……、」 タケを起こそうと手をあげたら、俺の糸がヒラヒラと伸びていった。そういえばタケの糸は…? 「…………っ。」 タケの伏せた頭を乗せるように組まれた腕。 そこから伸びる赤い糸は、キラキラと輝いて、やがて俺の糸と繋がった。 ・・――― まさか… とは、思っていた。 カミングアウトしてから縮まった距離。 俺がゲイだと気にしてないっていうアピールかなと思って最初は嬉しかった。だけど仲良くなるにつれて、その距離は気遣い以上のものを感じる時があった。好意を、感じた。 嬉しかった。ただ単純に嬉しかった。 だけどな、タケ。 それは気の迷いなんだ。魔が差しただけ。同情を勘違いしただけ。 両想いになったところで普通じゃないんだ。 普通じゃいられないんだ。 友達に紹介もできない。人前で手も繋げない。 結婚できない子どもも産めない親にも言えない何にもならない。 ましてやお前はノーマルだろタケ! 俺を救ってくれたろタケ! 俺は大事なんだ、お前が。 背も高くてガタイも良くて、優しくて明るくて楽しくて、こんな俺を好きになってくれたそのお前を、 俺は不幸には出来ないよ。 俺はカバンから箱を取り出した。中には赤く銀に光るハサミ。 「ごめんな。タケ。」 ・・・――
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