萬『八百屋』

4/17
前へ
/17ページ
次へ
だから、カミングアウトなんて絶対にしないとその時心に誓ったんだ。なのに何故かタケにしてしまった。 騒がしい居酒屋で、一気に酔いが冷めた俺とタケの間に一瞬できた間。その一瞬で『人生オワタ』と思った俺とは真逆に、タケはフニャッと笑って「そうなん?それは、大変だったねぇ。」と、応えた。 子どもみたいに笑いながら。 高い背にガタイもいいタケの手はやっぱりでかくて、その手でわしわし撫でられた俺は暫くポカーン状態だった。 人当たりのいいタケは、大学でもよく人の中心にいて、あんまり人と関わりたくなくて角にいた俺にもよく構ってくれた。 だから思ったんだ。酒が入ってもいつもと態度が変わらないタケなら、もしかしたら違うんじゃないかって。 あいつとは違う反応を示してくれるんじゃないかって…。 ……で、予想以上の反応にまんまと惚れた俺。俺の馬鹿! でも仕方ないんだ。あの時は人嫌いになっててでも一人は寂しくて、少し話すようになってたタケにサークルの飲み会誘われたら嬉しくて。 仕方ないんや!寂しかったんや!! 「…ヨシ、もうカレーなくなってるけど…」 「…え?」 あの時を思い出しながらがむしゃらに食べていたら、カレーがなくなってるのも気付かなかった。 とにかく、そのくらい俺はタケと飲みに行くのが嫌なんだ。あの時を思い出して堪らなくなるから。 「ねぇー、ヨシ~!やっぱ行か」 「行かない!!」 だから俺は、タケの誘いを断り続けた。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加