萬『八百屋』

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星の数ほど人はいるが、人生の中で出会える数なんてたかが知れてる。そしてその中に、ゲイがいる確率はどのくらいだ?運良くいたとして、そいつと出会う確率は? そいつが俺を好きになってくれる確率は? そうじゃなくても嫌な顔をされない確率は? そんな哲学を、自覚してから今の今までどれくらい考えたと思ってる? それなのに、カミングアウトをしてからタケは前より俺と距離を縮めようとしてくれた。そんな優しいタケだ。タケの為に、出来ることはしてやりたい。 「タケの、好きな人が誰か知りたくて。」 「え…?そんなこと、知ってどうするの?」 楽しい恋ばなに浮かれたマスターは一変して真面目な顔をした。 「多分、俺はタケに救われたから。タケにしてやれることはしたい。」 「でもそれは、ヨシがしてやることじゃないんじゃない?」 「それはそうかもだけど…。出来ることはあると思うし、やりたいから。」 俺が笑って見せると、マスターは呆れたような顔をしてしまった。 その後も、暫くマスターと喋って適当な時間になったので俺は店を出た。いつもの帰り道を何気なく歩いていると、ビルとビルの間から薄い光が見えた。 あ、そういえば…。マスターと喋ってたら忘れてたけど、今日の目的は「はっぴゃくや」に行くことだったのだ。 いつもの道の筈なのに、いつもと違う光。 もしかして、と、まさか。 酔いの回った頬に夜風が当たり少し震えた。 俺は春の寒気を感じながら、その穏やかな光に導かれるように路地裏に入った。
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