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だが確かに人の足音が床を軋ませている。力のない瞼を必死に開けてかすむ視界を広げると、一人の男の姿が映った。
男の手はパチンと小気味よく指を鳴らす。その指の動きに操られ、テーブルにあったポットから転がっていたカップにお茶が注がれていた。
──!…
人間ではないっ…
力の尽き掛けた瞼が思わず見開いた。
お茶をごくりと含んだ音が聞こえてくる。
「うむ…いい茶葉を使っている。毒が少々足りないようだがな……」
飲んでも平気なのかっ──
「……やはり…魔物かっ…」
「はっ、まだ口を聞く体力が残っていたか」
言われながら俯せていた身体を長い足で仰向けに転がされた。
「実に滑稽なことだが人間の醜いいさかいは大いに大歓迎だ…」
「なにを…っ…」
「村は盛大なディナーショーで我々を迎えてくれた」
──!?
「……村!?」
「ああ…」
「どういう…っ」
「大量虐殺だ」
「──!?」
「この邸、同様。赤く燃え上がっているぞ──」
──…!
「力を使わずとも自ら餌に成り下がる。人間とは愚かで低俗…実に欲深い生き物だ…くっ…」
込み上げた笑いをこらえ、またお茶を口に含んだ。
愚か…っ
確かにそのとおりだっ…
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