12章 主従の契約(後編)

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・ ゴソゴソと何かを探す執事の姿が男の目に透視される。 男は薄く呼吸を繰り返すモーリスに目を向けパチンと指を鳴らした。 「呼吸が楽になったか?」 「──…!?」 「サインを頂くまで死なれては困る…契約は契約だ。我々はそれを守る──低俗な人間と我ら魔物が違うのはそこだ…」 ……──っ! 「ならば娘をっ…」 モーリスは咄嗟に男の足にすがり付いた。 「娘も邸と一緒にもらってくれっ」 「………」 「頼むっ…」 どうせこの邸と共に燃えてしまうのならたとえ相手が魔物であろうとっ── 「娘は処女か──」 「……っ…」 「処女しかもらう価値はない──」 「た、たぶんっ…処女だっ」 「………歳はいくつだ」 「……じき、七つになる」 「よかろう」 「…っ!?──…ま、待てっ…待ってくれ…っ…」 娘の歳を聞いて引くと思ったのに当てが外れた。眉一つ動かさず条件を飲んだ男にモーリスは焦って足を掴む手に力を込めた。 「なんだ」 「む、娘に手は出さないでくれっ…命を、命だけを救ってくれっ!頼むっ」 「もらってくれと頼みながらそれは聞けん話だ」 「頼むっ…まだ六つだっ…惨(むご)いことは止めてくれっ」 「………」 「か、代わりに私を如何様に扱っても構わないっ──頼むっ…針で刺そうと皮を剥ごうと構わないから頼むっ…」 「……放せ──…服に皺が寄る」 男は足に絡んだモーリスを蹴り倒した。
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