12章 主従の契約(後編)

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・ 倒れた身体を起こしたモーリスに近付くと、額から滲んだ血を男は指で掬った。 「お前はほっといても時期に死ぬ」 口を開きながら指に着いた血をペロリと舐めた。 「そんな命を貰ったとて役には立たん──…ただの足手まといだ」 言いながら口にした血の味を舌で転がす── 「──だが…どうやらお前は他の低俗な人間よりは使える頭を持っているようだ」 「──!?」 「この邸と土地の権利、そして娘の命の擁護──それと引き換えに、魔物になり俺に仕えるか──」 「──……」 「無理強いはせん…どうせお前は死ぬ。お前の存在価値など俺には微塵もない──」 「………」 「邸に火が回りきる前に権利書を手に入れてくる」 モーリスはハッと我に返った。火が回る前に煙りに巻かれてしまう──っ イザベラがっ── 「頼むっ権利書より娘を先にっ──今の条件をのむっ私の財産の所有権もすべてと引き換えに娘の命を先に助けてくれっ!」 男はモーリスの必死の乞いに向き直った。 「よかろう──仮の契約だ。すべてが済むまでお前はそこに居るがいい」 「なっ…」 突然、見えない壁が男とモーリスの間を隔てた。
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