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リモーネはベットに横たわるイザベラの胸元を乱暴に探った。
「あった!」
煙りに巻かれた暗闇で手にした感触を確かめる。
その背後でふと何かの気配がした。
「こんな真夜中に美しいご婦人が盗人の真似事か?──」
「──……!」
ふっと首筋に冷たい息が掛かった。
「たった今、お前が無闇に触れたものは俺の所有物となるものだ──」
低く艶やかな声音。耳のすぐ後ろで聞こえた筈が今度は天井から響いてくる。
リモーネは怯えながら声を辿って周りを必死で見回した。
「これだけじゃない」
「……!?」
突然手首を捕まれ手にしていたペンダントを奪われてハッと顔を上げた。
「この邸にあるすべてが俺の所有物となる──…大事に扱ってもらわねば困るな…」
光りながら揺れ動くペンダントを持つ指先は鋭い爪を見せている。
静かな声が不気味なほど頭に響く。
邸のあちらこちらが燃えて建物の軋む音が聞こえてくる──
リモーネはペンダントを手にした男の赤い瞳に腰を抜かした。
「ひゃ…ひゃ…」
叫ぼうにも強い恐怖で悲鳴が出てこない──
「ここの主は己の消えかけた命とすべての富と引き換えに娘の命の擁護を条件に出した……」
「……っ…」
ゆっくりと近付いてくる男からリモーネは後ずさる。
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