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──◇◇◇──
「モーリス様!またヘラウド公爵の使者が──」
「そう騒ぐなフィンデル」
「しかし、こうも毎回っ…」
短髪に白毛交じりの農夫。小屋の農耕馬を世話する使用人、フィンデルは邸に続く小路の向こうで見掛けた人影の一行を目にすると、急いでこの邸の主人に知らせた。
西の澄んだ気候。良質の果実が育つこの土地は葡萄酒造りが盛んな高級ワインの名産地でも名高い。
各国への献上物、または土産品としても取り引きが多い為、国一番の潤いをみせるこの土地の領地主。モーリスは騒々しく執務室に飛び込んできたフィンデルを静かにたしなめた。
「しかしモーリス様、あいつは公爵等と言う立場を利用してこの土地を──」
「どちらが領地主として相応しいか等、決めるのは民だ──…どんなに権力をかざしたとて、土と共にこの地を土台から築いてきた民が認めはしない、そうだろうフィンデル?」
「そ、それはそうですが…」
自分より若くある主人に落ち着きながら諭され、フィンデルは手にしていたハンチング帽をやりようもなく両手で握り締める。
それでも何か言い足りないと、そんな面持ちで顔を上げた。
「しかしアイツは国王様にまで取り入ってっ…何をしでかすか知れたもんじゃないっ──!モーリス様も気を付けて頂かないとっ」
「それは充分に心得てるつもりだ」
モーリスは卓の上で手を組むと目を閉じて深く頷いた。
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