12章 主従の契約(後編)

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・ 執事はガクリと首を項垂れた── 男の手のひらには鼓動を打ち続ける肉の塊が乗っている。 「ヴコ、居るか──」 「はい……グレイ様、御呼びでしょうか?」 「これをくれてやる…邸の炎を鎮めておけ」 「御意」 金色の双瞼が闇で光る── 毛むくじゃらの体に長い口からは鋭い犬歯が覗く。人狼型の吸血種族、ヴコは大好物の生きた心臓を手にするとそこから姿を消し去った── 首を項垂れた執事の屍をグレイは持上げたまま冷たい目で見据える。 その足元では皺くちゃの老婆の姿になったリモーネが震えていた。 「この身を裂いてもいいが、これ以上この邸を穢れた低俗な血で汚すわけにはいかん…」 グレイは怯えるリモーネをチラリと見る。 「この邸が辿る運命をお前に背負わせてやる……」 “灰になって消え失せろっ…” そう呟いた瞬間、執事の肉体はその場で砂のようにサラサラとグレイの手から零れ落ちた。
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