12章 主従の契約(後編)

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・ 粉砕された肉体は煙りの様に空間を漂う── そしてキレイさっぱりと消え去っていた…… 「お前も早く立ち去るがいい──」 「ひっ…」 「その姿を愛人に見てもらえ」 グレイはそう言って高く笑った。 「まあ、寄り付くなと言われるのが関の山だがな──…その姿で後ろ楯を無くしたお前のこれからの人生はさも悲惨なことだろう──」 「──…っ!?…」 「人間の若さと肉体は永遠ではない──…愚かな人間の女はその事に気付かず無駄に色気を振り撒く…お前のような安い色気をな…」 「……っ…」 グレイはリモーネに近付いて腰を屈めた。床に座り込んだリモーネの皺だらけの頬をそっと撫でるとリモーネの後ろにあった姿見を手のひらで押して静かにヒビを入れた── 「美貌も若さも失ったお前に何が残ったか見せてもらおうじゃないか?」 「──…っ!」 抜き取った大きな鏡の破片にリモーネの姿を映して見せる。 「ああ…酷いっ…なんてことっ…」 グレイは狂ったように取り乱し始めたリモーネをさも楽しそうにみて笑っていた。 「早く能無しの男の元へ行くがいい──」 その姿で愛される自信があるのなら… 思いきり胸に飛び込み抱かれてこい── 「早く行かなければ時間がないぞ…」 年老いたお前の肉体も お前の愛する男も── 時期にあの世へ送ってやる 「いっ…いやぁぁっ…」 リモーネは震えながら泣き叫ぶと転がるようにして邸を飛び出していった── グレイは取り戻した権利書を広げて見つめた。 低俗な人間にしては実に良いものを作りだす村だと手を出さず餌場にしてはいなかったが── 人間は愚俗な輩だ グレイは窓に寄ると燃える村を冷めた目で眺めていた……。 「ヴコ」 “はい” 「早く火を始末しろ」 “はい……今、直ぐに” 邸の屋根の上に肩の怒った大きな魔物の姿が現れる── 二本足で歩く獣は強く輝く金色の眼光で空を見上げた。ヴコは大きな遠吠えを闇夜に向ける。 雲を呼び寄せ吠え続けると炎に包まれたロマネの地は、やがて大地を濡らす雨に覆われていった… 燃え盛っていた炎はやがて、漂っていた煙りと共に存在を薄くしていく── 黒く燻(くすぶ)り靄が掛かる風景を、逃げて生き延びた民達は高台から悲し気に見下ろしていた。
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