12章 主従の契約(後編)

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・ 二人はそこへ恐々近付いていく── 「うん、穢れてるな」 「ああ、こいつは不味いくらい穢れてるうまい肉だ」 「グレイ様に持っていくか?」 「グレイ様は美味くない穢れてない肉が好みだ──…これ持って行ったら怒鳴られるぞ」 「そか。…なら喰っちまおう」 食談義を交わしながら骨を噛み砕く音が聞こえてくる。 ガーゴイル達の足元からちらりと覗いた屍の顔を見てフィンデルはあっと声を上げていた。 「公爵の使者だ…」 フィンデルは連れの民にボソリと告げた。 「悪党ばかりを喰い荒らしてるってことかコイツらは……」 「ああ、そのようだな」 「いったい誰に言われてこんな──」 「だが俺達はコイツらに助けられた──…人間に襲われて魔物に助けられたんだ……」 フィンデルの呟きに連れの民は複雑な面持ちで深く頷いていた… 魔物に救われた村── 恐ろしい惨状は突如現れた魔物の襲来によってあっけなく幕を下ろした──。 全焼を免れた民家から、生き残った民達が次々に出て来る。 目の前には魔物に喰われ続ける賊の惨劇が広がっている── だが同情する気にはもちろんなれない。炎に巻かれ、逃げ遅れた仲間も多くいる── 民の一人は転がる賊の屍に石を投げ付けた。 一人のとった行動に火が付き、民達はこぞってそこらの屍を足で蹴り始めた。 「お祖父ちゃんを還してっ…脚が悪くて逃げられなかったじゃないかっ…っ…」 「そうだっ!!村一番のおいしい葡萄を作るお祖父ちゃんだったのにっ…っ…」 「お前達は国の宝を殺したんだっ…」 「ロマネのワインが消えたらこの国は──…滅びるんだぞっ──!」 口々に思いが叫びとなって吐き出される。 降り頻る雨はやまない── 火の消えた村を暫しの間眺めると、グレイはぐっすりと眠るイザベラの部屋を後にした──
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