12章 主従の契約(後編)

34/36
前へ
/36ページ
次へ
・ 着いた火は瞬く間に権利書を黒い灰に変えグレイの指先から床に落ちる。 グレイが指を離すと摘まんでいた隅の白い箇所まできれいに燃え尽きていた。 「何を──……」 「これで契約は交わされた──…この契約は二度と覆すことはできん…我ら魔物の世界では紙切れの契約書なぞなんの意味ももたぬ…」 「………」 「魔物との契約は永遠を意味する──…わかったな」 モーリスは口を接ぐんだまま視線を返す。もう今さら何があろうと微動だにすることはない── 私はこの魔物に付き従う契約を交わした… モーリスは全てを諦めたように目を閉じていた。 脳裏に浮かぶのは愛しい娘、イザベラのことばかりだ。 グレイは覚悟を決めたモーリスの額に手をかざした。 「もうお前に吸血するほどの血はない──…それだけ乾いていれば俺の血は隈無く行き渡るだろう」 そう呟くと片手をモーリスの額に当てたまま、グレイは呪符を唱え始めた。 我の血を継ぎし異端の物 我に従い永遠に誓い 我と共に滅す── 囁きを繰り返すグレイの手に抑えられたように佇んでいたモーリスの膝が床に落ちる。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

94人が本棚に入れています
本棚に追加