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無表情で両膝を床に着くと、額に手を置いたグレイを仰ぎモーリスは口をゆっくりと開いていた。
グレイは自分の手のひらで拳を握るとモーリスの口元にかざし、グッと力を込めた。
自身の鋭利な爪で傷つけられた手のひらから、濃いボルドーの血が滴りモーリス唇を染めていく──
「──……!…」
一滴がモーリスの咽頭へと流れ込むとその途端にモーリスは苦し気な呻き声を上げて床に転がった。
「……かっ…は…っ」
「苦しいか」
「……ぐっ…っ──」
「声も出んほど苦しいようだな」
床をのた打ち回るモーリスの肌の血管が浮き上がる。
青白かった肌が真っ赤に染まりモーリスは白目を剥きながら喉を引っ掻いた。
「先程の毒の域ではなかろう──」
「かっ…ッ──」
「人であった肉体が魔物になるのはそう容易なことではないからな……」
血走った形相。鮮烈な痛みが身体中を駆け巡る。助けを求めるようにモーリスは這いずりながらグレイの靴先に手を掛けた。
「そう慌てるな──…どんなに苦しくとも死にはしない…くっ…はははっ…」
そう言って足を払いモーリスの手を退かす。グレイは言いながら突然笑い始めた。
「もうお前は死んでいるからな──…じき、その苦しみからも解放される…」
グレイが言った途端に床を這っていたモーリスの動きがパタリと止まっていた──
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