12章 主従の契約(後編)

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・ 無表情で両膝を床に着くと、額に手を置いたグレイを仰ぎモーリスは口をゆっくりと開いていた。 グレイは自分の手のひらで拳を握るとモーリスの口元にかざし、グッと力を込めた。 自身の鋭利な爪で傷つけられた手のひらから、濃いボルドーの血が滴りモーリス唇を染めていく── 「──……!…」 一滴がモーリスの咽頭へと流れ込むとその途端にモーリスは苦し気な呻き声を上げて床に転がった。 「……かっ…は…っ」 「苦しいか」 「……ぐっ…っ──」 「声も出んほど苦しいようだな」 床をのた打ち回るモーリスの肌の血管が浮き上がる。 青白かった肌が真っ赤に染まりモーリスは白目を剥きながら喉を引っ掻いた。 「先程の毒の域ではなかろう──」 「かっ…ッ──」 「人であった肉体が魔物になるのはそう容易なことではないからな……」 血走った形相。鮮烈な痛みが身体中を駆け巡る。助けを求めるようにモーリスは這いずりながらグレイの靴先に手を掛けた。 「そう慌てるな──…どんなに苦しくとも死にはしない…くっ…はははっ…」 そう言って足を払いモーリスの手を退かす。グレイは言いながら突然笑い始めた。 「もうお前は死んでいるからな──…じき、その苦しみからも解放される…」 グレイが言った途端に床を這っていたモーリスの動きがパタリと止まっていた──
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