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項垂れた頭を床に付け、俯せの肉体が転がっている。グレイはその前に立ち塞がり動かなくなったモーリスを静かに見下ろす。
「痛みから解放された時がお前が魔物に生まれ変わった時だ──…」
そう言ってしゃがみ込むとグレイは上から囁いた──
「起きろ──モーリス…」
モーリスはむくりと起き上がって言った。
「イエス──…マイ・ロード……」
無表情のままガラスのような視線を向けるとグレイに向かって深く頭を下げる。
「ふ…まだ意識が混濁しているか…」
グレイは無表情のモーリスを見てそう呟く。
「……お前のやらなければならぬ仕事がたんまりとある──…早く自我を取り戻せ」
「………」
「従順な主従を側に置くつもりでお前を選んだわけではない──…わかったな」
「………」
「わかったな?」
「イエス・マイロード…」
「わかったら俺の靴に慈悲を乞うてみろ──」
グレイはふっと笑い靴を突き出す。その行為にモーリスは何一つ躊躇いもせずにスッと腰を落とし、グレイの足を自分の立てた膝に乗せていた。
「旦那様…靴が汚れていらっしゃいます」
ハンカチを取り出してモーリスはグレイの靴を手早く磨く。そしてその足をそっと床に戻した。
降ろしていた腰を上げてモーリスは真っ直ぐに前を向く。
「旦那様──…私は旦那様と主従の契約を結びましたが奴隷になったわけではございません」
「………」
「靴を磨きは致しますが、靴に口を付けるなど…今後、如何なることがあろうと私がするべきことではございません…悪しからず、慈悲を乞うて頂きたくば他をおあたりくださいませ…」
モーリスはそう言いきると、また深くお辞儀を返した。
その姿を見てグレイは思わず鼻で笑う。
「それでいい……直ぐに仕事をくれてやる」
グレイは短く返すと背を向ける。そして執務室へとモーリスを促していた……。
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