12章 主従の契約(後編)

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・ 「ごきげんよう、モーリス殿。“そろそろいい返事を訊かせてもらえる頃だ──”と旦那様から御言葉を預かってきているが…腹は決まったかな」 室内に足を踏み入れるなり、使者はそう切り出す。 モーリスはため息交じりに顔を向ける。 「何度も申した通り──…私はこの土地を管理しているだけで持ち主の権限はない。このロマネの土地はここに住む民のものだ」 静かな口調で語るモーリスに使者はふん、と鼻だけでせせら笑う。 「君がどんなに権利を放棄したとて、この地の権利書は実際君の手元にある──…」 「だから、私はそれをただ預かっているに過ぎない──ヘラウド公爵には再三申し上げた筈だ…この地を手に入れたくば、民の票を集めよとな?民が選んだのなら私はいつでも権利書を手離す──」 モーリスの言葉に使者は口の端だけで笑った。 「君はわが公が悪名高いのを知っているだろう?──」 「………」 「それを知った上での君の打ち出した条件は公爵の怒りを買ったも同然だ──…まあいい、今日は君の意思の確認をしにきた迄だ…」 使者はくるりと背を向ける。そして扉口までくるとまた振り返った。 「…何も起こらぬ内にさっさと権利書を手放した方が身のためだと思うがな……君の為にも……民の為にもな──」 「……っ…」 執務室を出る間際に言った使者の言葉にモーリスは一瞬目を見開く。
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