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閉まった扉を見つめるとモーリスは少し厳しい表情を浮かべ眉間を寄せた。
「結局は脅しに出やがった!」
フィンデルは床に帽子を叩きつけた。
「ほんとにしつこい奴等だ──何を企んでるかわかったもんじゃないっ…」
「ああ、…脅しだけなら言いが──あの様子では民にも手を出し兼ねないな…ほんとに困ったものだ…」
深いため息を吐く──
「仕方ない、夕方に民を集めて相談してみよう。フィンデル、少し頼まれてくれるか…」
「ええ、もちろんですとも」
フィンデルは気持ちよく応えた。フィンデルが執務室を出ようと扉に手をかける寸前に扉が勢いよく開かれる。
「お父様!」
「おや、イザベラ」
金糸の細い髪を揺らし、人形を抱き抱えた小さな女の子が駆け込んでくる。イザベラは父親であるモーリスの膝元へ駈けて抱き付いた。
「父さんは仕事中だ。リモーネに遊んでもらいなさい」
そう言いながらも愛し気に抱き締める。歳いってから愛する妻の命と引き換えに産まれた大事な一人娘──
「あまりお転婆が過ぎると母さんの大事なペンダントを無くしてしまうじゃないか?」
モーリスはイザベラの髪を撫でて幼い胸元に潜む妻の形見をワンピースの上から指差した。
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