12章 主従の契約(後編)

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今夜はやけに静かだ── 薄暗く澱んだ空。月の形も歪んで見える── 時期、雨がくるからだろうか? 礼拝堂の大きなマリア像の肩に長い影が見える… 黒い服を纏った長身の後ろ姿はぬるい風にはためくマントを払うと軽く手を振り上げた。 それを合図に何処からともなく無数の黒い塵が飛んでくる。その塵はやがて手足を現し、骨の翼を広げ、村中の空を黒いカーテンで覆った── 「今宵は面白い余興が観れそうだ──…お前達も存分に楽しむがいい」 ふっ──…と笑みを浮かべるとマリア像の肩から離れ、宙に浮く。 飛び回る黒い塵の影に交わると長身の影は一際大きな翼を広げて空に漂う香りを吸い込んでいた。 「雲行きが怪しくなってきたな?今夜から降るか?」 「どうでしょう…」 居間の窓から覗いて見上げた空の様子を口にする主人に執事は疑問で返した。 「イザベラはもう休んだか?」 「ええ、リモーネと遊び疲れてぐっすりでございます」 「そうか…リモーネも良くやってくれている。今度何かお礼を返さねばなるまい…」 執事が入れてくれたお茶にモーリスは手を掛けながらいった。 image=504621337.jpg
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