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あんなにイザベラがなついていたのにっ…
なんて女だっ──
今さら罵っても遅すぎる。
「土地だけをっ……手にしたとてっ…何もならないっ…この地を育てたのは民だ──!民がヘラルドなど認めやしないっ……」
モーリスは必死で声を荒げる。
感情を露にするモーリスに、執事は無表情を向けた。
「民の意見など公爵様には関係ない──従わなければ従わせるまで…それでも逆らうなら……」
「…何をする気だっ…っ…」
モーリスは目の前の執事の靴に手を掛ける。
「──今のあなたと同じ運命を辿るまでですよ。旦那様──…いや、モーリス…」
「ぐっ…!」
執事は靴を掴んだモーリスの手を蹴り払うと頭をゆっくり踏みつけた。
モーリスはこめかみに乗る執事の足首を咄嗟に掴んで抵抗する。
「この国が誇るのはワインではないっ…っ…それを造り出す民の知識だ──っ!」
口から溢れる血が気管に詰まり強く咳き込む。
「土地だけ手に入れたとて…っ…葡萄を育てる知識がなければいいものはできんっ…」
「それでも欲しいと思うのが欲深い男の望み。愛人は、その者以上にまた、欲深い──…」
執事は静かな声でそう呟く。
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