第一章 失意と決意を越えた先 

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 視界を覆うように煙(けぶ)る強い雨に打たれながら、苦心して手綱を操り、泥で滑りやすくなっている地面に馬を走らせていた。  時刻は午(ひる)をとうに過ぎたというに、薄い闇のような靄(もや)だけが辺りを包んでいる。  先ほど部下から聞かされた報告は驚愕の一句に尽きた。  魔物討伐のための遠征に出たルバルデイア軍王宮親衛隊『白の翼』率いる混成部隊が、壊滅状態だという内容だ。  悪天候の中、必死で馬を操る『白の翼』の軍団長レヴァンス・クロードは、その事に対して腑に落ちずにいた。  部隊が壊滅したことは元より、レヴァンスは魔物たちの動きに尋常ならざるものを感じていた。  魔物たちは明らかに統率がとれていたのだ。  元来魔物は群れて行動する事はあるが、それはあくまで小規模での話。  数百名近くのレヴァンスの部隊を易々と壊滅に及ばせる規模というのはもはや集団でなく、それは軍団と呼べるもの。  それもまるで訓練された兵士達のような統一性を用いて行動することなど、これまで聞いたことがない。  ましてや、それが街一つを飲み込んでしまいそうなほどの大規模の一群ならば尚更に。  そも、そこまでの規模の魔物の群れが存在していたならば、前もって各都市の防衛にあたっている軍が把握していない筈がない。  だがそれらは突然湧いてでたように、前触れなく姿を見せたという。  実際に軍が情報を掴んだのは、ルバルディア北方の都市イサトラにまで魔物の侵入を許してしまってからだった。  そして、それらの討伐にあたって進軍途中だったレヴァンスの部隊が、今こうしてさらなる襲撃を受けた。  この魔物達とイサトラを襲撃した魔物達の間に関連性があるのか、今はまだわからない。  ただ、魔物たちは明らかにこちらの急所を狙ってきた。  首都レバーイトンから遠征に発った『白の翼』を主力とした討伐軍の団員数は総勢400名。  それぞれを四つの部隊に分けて編成し、行動させていた。  第一部隊と第二部隊は150名ずつ、この二つの部隊が魔物討伐軍の要であり、第一部隊はレヴァンス自ら指揮する『白の翼』の団員を多く含む主力隊。  構成された要員もほとんどが粒揃いの精鋭達であり、忠義にも厚い人間ばかり。  レヴァンスにとっては長い連れ合いの、家族にも似た輩たちだった。
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