19人が本棚に入れています
本棚に追加
「なんだ、女。俺様とやろうってのか?」
大男は怒気を含んだ声で言った。
しかし、女は怯んだ様子もなく、フフッと笑う。
「だから単細胞はイヤなのよ。なんでも暴力に訴えようとして。まあ、脳ミソまで筋肉で出来てるようなアンタには、それしか思いつかないんでしょうけど」
「な、なんだと!?」
「あら、図星だった?」
(こ、この女、ひどすぎる……)
アレスがそう思い始めた時、
「こ、このアマ~!」
怒りが頂点に達した大男が、女に向かって殴りかかった。
「わっ!」
アレスは思わず目をおおった。だが、直後に「おおっ!」と喚声が上がる。
そっと目を開けると、そこには、床に倒れた大男の鼻先に剣を向ける女の姿があった。
「えっ?」
アレスには何が起きたか分からなかったのだが、目をおおっている間に大立ち回りが展開されていたようだ。
「や、やめろ。店は出ていく! 謝るから……」
大男は女に懇願した。が、女は不敵な笑みをもらすと言った。
「それだけじゃ、みんなの気がすまないのよ」
そして、持っていた剣を閃かせる。
女が剣を収めたとき、大男の服は切り裂かれ、下着姿のあられもない格好になっていた。
「ひっ、ひいぃー!」
大男は顔に似合わぬ悲鳴を上げながら、店の外へと走り去っていった。
「うおぉぉー!」
店内にいた客達は大いに盛り上がり、大男を追い払った女に称賛の声をかける。
女はそれに答えながら、突っ伏したままのアレスの顔を覗き込んだ。
「大丈夫?」
「あ、ああ」
「災難だったわね。でも、どうしてそれを使わなかったの?」
そう言って、ようやく起き上がったアレスの腰元にある剣を指差す。
「だって、勝てっこなかったし……。それに、こんな所で振り回したら、他の客に迷惑だろ?」
アレスの言葉にハッとしたような表情をすると、女は口許に笑みを浮かべて言った。
「ふうん。さっきの筋肉バカよりは、使える頭があるってことね」
「ど、どういう意味だよ?」
アレスの質問には答えずフフッと笑うと、女は店の出口に向かった。
「あ、ちょっと待って!」
「何?」
「さっきは、助けてくれてありがとう」
アレスは丁寧に頭を下げた。
「律儀ねえ。ま、嫌いじゃないけど。あんた、名前は?」
「えっ? ア、アレス」
「そう、私はリディア。冒険者同士、よろしくね」
最初のコメントを投稿しよう!