19人が本棚に入れています
本棚に追加
広場の中央には噴水があり、日の光にキラキラ煌めきながら流れている。
アレスは噴水につながる階段の所に腰を下ろすと、ふうと息を吐き出した。
(よし、今回も無事達成だ!)
心の中で小さくガッツポーズをすると、さっきの女店主の顔を思い出す。
誰かの喜んだ顔が見られるのは嬉しいし、感謝されるのはやっぱり気分がいい。
次の仕事はどうしようかなどと考えていると、
「アレス?」
ふいに声をかけられた。
アレスが顔を上げると、そこには懐かしい顔があった。
赤毛のくるくるした髪に、そばかすが残るその顔。
「キット?」
「やっぱりアレスだ。久しぶりだな」
キットと呼ばれた青年は、アレスに向かってニカッと笑った。
キットは、アレスと同じ村の出身で幼なじみ。小さい頃から仲が良く、アレスが勇者として旅に出るときも見送りに来てくれていた。
「それにしても、こんな所でどうしたんだよ?」
「父さんの使いだよ。俺もいずれ、店を継ぐことになるからな」
キットの家は、村で雑貨屋を営んでいる。
子供の頃こそ、同じ剣術道場に通ってはいたが、いずれはこうなることは分かっていたのだろう。
「で? お前はどうなんだよ? ちゃんと勇者やってんのか?」
「まあ、ぼちぼち……かな?」
「はあ? なんだよそれ。煮え切らない答えだな」
キットは背負っていたリュックを下ろすと、アレスの隣にどっかと座った。
日に焼けたような、懐かしい田舎の匂いがふわりと漂ってくる。
「し、仕方ないだろ。まだ、村を出てから2月しか経ってないんだぞ」
「それもそっか」
『ハハハ……!』
二人は顔を見合わせて笑いあった。
「でもさ」
キットが正面に向き直って言う。
「俺もドイルも、お前に期待してんだぜ」
「うん……」
アレスは小さく頷いた。
最初のコメントを投稿しよう!