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それからどうなったのか覚えておらず、気がついたら噴水の前で倒れていて、一人の男が顔を覗きこんでいた。
「気が付きましたか? 良かった」
「俺は、いったい……」
「あの男達に殴られたんですよ。そのうちに気絶してしまったようで……」
「そっか、……って!」
アレスは重要な事に気付き飛び起きた。今、目の前にいる男に見覚えがある。
「ええ、私のせいです。巻き込んでしまったようで、申し訳ありません」
アレスの表情から見てとったのか、その男――セオは謝罪の言葉を口にした。
「あ……いや。済んだことだし、もういいけど」
それに、セオには直接的な罪はない。
だが、そんなアレスに、セオは思いもよらない発言をする。
「しかし、嫌なら『嫌だ』と、何故はっきり言わなかったんです?」
「……え?」
「あの女性に、無理矢理連れてこられたのでしょう? おそらく、その双剣の紋章を見てのことだとは思いますが」
そう言って、アレスの首もとにあるマントの留め飾りを見る。
それは、二本の剣を十字に組み合わせた形をした『双剣の紋章』。勇者試験に合格した者だけに与えられる――勇者の証だ。
「に、偽物じゃないからな。ちゃんと試験を受けて、合格したんだ。史上最低点……だったけど」
アレスはそのまま俯いてしまった。
勇者試験は数回受けたのだが、何度も不合格だった。やっと合格して、家族も友人も喜んでくれた。
もちろん、自分も嬉しかった。採点結果を見るまでは……。
「なるほど。あなたに足りないのは『自信』のようですね。そんなことでは、勇者の名折れですよ」
「そんな事は分かってる! 自信も無ければ、度胸もない。分かってるんだ……」
アレスは益々惨めになった。
そんなアレスを見て、セオはふうっと息を吐く。
「仕方ありませんね。私が手を貸しましょう」
「えっ?」
「これも何かの縁です。事実、私はあなたに助けられた訳ですし。あなたの仲間になりましょう」
「い、いいのか?」
ちょうど仲間を探していたアレスは、期待の眼差しでセオを見た。
「その代わり、あなたには立派な勇者になっていただきますよ。天界神ファーネスの教えのもと、全ての人に平和と幸福をもたらすために」
そう言って、整った顔立ちに笑みを浮かべる。
「えっ……」
(布教活動のため……?)
アレスは困惑した顔でセオを見たのだった。
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