3人が本棚に入れています
本棚に追加
人間の行いを超えた、狂気の拷問を続けた私の精神はもう崩壊寸前。強い復讐心と薬の力によりギリギリ踏みとどまっている。
「もういい。終わりにしてあげる。あの世でもお前に待ち受けるのは地獄。永遠に苦しむのよ」
そばにあった包丁を握り締める。
そして、夫の致命傷となった腹部の刺し傷と同じ場所に向かい真っ直ぐ突き刺した。
肉を切り裂く感触が手にも伝わってくる。
男は激しい痛みから、残った瞳が飛び出さんばかりに見開き、呻き声をあげた。
包丁の柄から手を離すと、部屋に灯油を撒き散した。思い出も、男も、何もかも燃やし尽くすために。
ライターに火を付け、部屋の入り口から中に放り投げた。
灯油に火が触れると一気に燃え上がり、一面火の海と化していく。
男にも火が燃え移ったのを確認し、家を飛び出した。
そこから向かった先は、海が見える丘の上の墓地。
二人が眠る墓の前に力無くしゃがみ込んだ。
「全て終わったよ。これで良かったかどうかは分からない。でも私は許せなかった。あなたとゆうちゃんの未来を、私達の幸せを奪ったあの男が。憎くて憎くて堪らなかった。この手で殺してやりたかったの……。 私は汚れてしまった。それでも……」
すると――頭に衝撃が走り、何かが頭の中を通り過ぎていった。
全身の力が抜け地面に倒れ込んだ。
そこで視界に入ったのは、黒いスーツに黒いサングラスを掛けた長身の男。犯人探しともう一つ依頼をした男だった。
だんだん視界が霞んでいく。
「これでお前からの依頼は果たした。もうゆっくりと眠れ」
――私は汚れてしまった。それでも……そんな私でも……そっちで一緒に居てくれますか? もうすぐ行きます。
二人の分まで生きられなくて『ごめんなさい』。
最初のコメントを投稿しよう!