五章 エンパシーゴースト-3

7/20
前へ
/335ページ
次へ
最初に屋敷をおとずれた日、アンソニーはタクミを警戒しているようだった。 妻の浮気を案じているんだと言いわけしていたが、そうではない。 タクミはオリジナルダイアナの遠縁と名乗っていた。 もしも、タクミがオリジナルダイアナの顔を知っていれば、彼の犯した過去の罪が明るみになってしまう。 だから、警戒した。 だが、あのとき、タクミが寝ぼけた返事をしたので、彼は秘密が守られていることを知って安堵した。 でなければ、タクミの命も危なかった。 「オリビエさんは、こんなふうに考えたんでしょう。 一年前のモナコの事故のとき、二人が入れかわったあと、事故で本物のアンソニーが死んだと。アルバートさんは経済的に破たんしていたから、事故に乗じて兄になりすましたんだと。 そもそも、そこが計算違いだった。 あれは事故なんかじゃない。アルバートの綿密な計画による殺人だ。アルバートはあの事故が必ず起こるようマシンを改造して、スタート直前に兄とすりかわる計画を立てていた。 つまり、あなたがアルバートであるにしろ、アンソニーであるにしろ、残ったほうの双子の片割れは、殺意を持って兄弟を殺したことになる。 もし計画に不備が起きて、兄と入れかわれなければ、アルバートはレースを棄権していたはずだ。     
/335ページ

最初のコメントを投稿しよう!

110人が本棚に入れています
本棚に追加