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姿形は酷似していても、それは魂のない人形。
器だけの、なかみのない空虚ないれもの。
(あの人に会いたい。あの人をとりもどせるなら、どんなことだってする。たとえ、そのために罪を犯そうとも)
その思いが年々ふくらんで、私の心を病魔のように、むしばんでいく。
それは、神のごとく生かされるために生まれてきた者として、あってはならないことだ。
思いを押しころしていた。
ちょうど、そんなときだ。
あの人の気配を感じたのは。
「ーーオシリス、聞いてる? こっちが、この一年間に発表された論文と科学誌。それと、こっちが、うちで続けてきた独自の研究データ。あなたの意見を聞きたいわ」
ひろげられた電子ペーパーを読みながしていた私は、とつぜん、頭のすみに針をつき通されたような、するどい感覚を受けた。
あの人がいると、はっきり感じる。
「オシリス?」
私は、そくざに行動に移した。
人類の英知をすべておさめた、この頭脳が、逃げだすなら今しかないと告げていた。
「メアリ。すまない」
「え……?」
メアリが聞きかえしたときには、その体はイスのなかに深く沈みこんでいる。
私のESPで、催眠状態におちたのだ。
「お眠り。深く」
監視カメラが、私の行動をとらえていた。
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