プロローグ

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プロローグ

深い眠りから覚めると、悲しみが、おとずれる。 永遠に埋まることのない喪失感が、心の翼を折る。 ついさっきまで、たしかに自分は神だった。 人智をこえた至高の存在として、すべてにおいて満たされていた。 だが、こうして機械のなかの不自然な充足感から現実にもどってみれば、ただの孤独な人間にすぎない。 人々は自分を完ぺきな存在だという。 しかし、それは、まちがいだ。 自分こそ、誰より不完全な存在だと思う。 幸福なころの私は完ぺきだった。 でも、今の私は半分。 私たちは二人で一つの完全体。 あの人がいなければ、私は、なんと中途半端な、おろか者なのだろう。 自分の感情さえ、ままならず、過去の自分にたよる始末だ。 「おはよう。オシリス。お目ざめの気分は、いかが?」 声をかけてきたのは、ナニーのメアリだ。 私が生まれたときからの世話役である。 メアリの声を聞き、私は専用のベッドからおりた。 今回の眠りの周期は一年だった。いいデータは得られたのだろうか。 「いつもと同じだよ。おはよう。メアリ。今回は何日、起きていられる?」 「十二日よ。むこうに食事の用意ができてるわ。シャワーをあびたら来て。スケジュールは、ぎっしり、つまってるから」     
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