六十七章 北に向かって

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  「師匠はね──」  楽しそうに話し始めたクレーネーと彼らの会話に耳を傾けた。 「──え、じゃあ、お師匠さんはあの“雪妖精”さんなのかい!?」 「う、うん」  初老の男はクレーネーに訊ね、目を見開いた。若い男と中年の女性は目を合わせて複雑そうな顔をした。 「師匠がどうかしたの……?」  おずおずと聞いたクレーネーに、三人は気まずそうに視線で会話をし合う。おそらくリューティスの『偽者』の存在を知っているがゆえの反応だろう。  ちらちらとこちらに向けられる三人の視線。リューティスはフードを下ろして小さく息を吐き出した。 「……『偽者』の件はすでに兵士の方から伺っております」 「つまり、あなたは本物だと?」  初老の男からの疑いの視線に、リューティスは無言で“ボックス”を開き、ギルドカードを取り出して、初老の男に手渡した。 「“月の光”所属、AAランクのリューティス・イヴァンスです。……呼び名に関しては、気がついたらつけられておりましたので、真偽について申し上げることはできませんが」  三人はギルドカードを覗き込み、まじまじとそれを見つめていた。 「師匠、偽者って?」 「……“雪妖精”を名乗る方が現れたそうです」 「へ?」 「僕といたしましては、そのまま呼び名を差し上げたいところです」 「な、なんで……?」  リューティスは無言でクレーネーから視線をそらした。 .
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