一章 国境の街、ヤーヤイル

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   受付嬢はリューティスが差し出した書類を受け取ってざっと目を通すと、すぐに顔をあげた。 「二時間ほどお時間をいただくことになりますが、よろしいでしょうか」  やはり時間がかかるようである。 「大丈夫です。よろしくお願いいたします」 「かしこまりました。こちらの番号札をお持ちになってあちらでお待ち下さい。番号札をお持ちの方はすべての品が二割引となります」  手で示されたのは、建物内に作られている喫茶店だ。リューティスは促されるがままに喫茶店の方へと足を向けた。  昼食をとってから、まだ三時間ほどであったが、甘いものが食べたくなった。品書きを見ると、チョコレート関連の甘味が多数書かれていた。南の国はカカオの産地であり、南の国との国境にあるこの街にもカカオが流通しているのだろう。  リューティスはガトーショコラと紅茶を選び、注文した。ほどなくして料理が運ばれてくる。  ガトーショコラは粉砂糖がまぶされただけの簡素な飾り付けだったが、代金を支払って早速フォークで切って口に運んでから驚いた。口に広がるチョコレートが、あまりに濃厚だったのだ。  中央の国の首都でこれと同じものを食べようと思うと、今支払った代金の三、四倍は出さなければ食べられないだろう。 .
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