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「名前はあるのかい?」 ーーないよ。 ずっと野良で生きて来た。通り名はあったけど、名前じゃない。 「私が付けても?」 ーーうん。 名前を付けて貰うのは初めてだから嬉しい。 「素敵な名前を考えたんだ。気に入ってくれるといいな。・・・君の名前は『コトハ』だよ」 ーーコトハ。人の名前みたい。 「私の名前は浅葱。・・・言ってごらん」 顔の高さまで持ち上げ、じっと瞳を見つめる。浅葱の真っ黒い瞳の中で、時折お星様がキラキラと光って見えた。 ーー浅葱。 「良く出来ました」 ーー主様って呼ばなくていいの? 「コトハには、名前で呼んで貰いたいな」 そう言って、ペロリと鼻を舐められた。お返しに舐め返す。 ーー浅葱。 「うん」 ーー浅葱。浅葱。浅葱。 名前を呼ぶ度に、嬉しい気持ちがどんどんと湧いて来る。 「折角コトハの目が覚めたんだ。少し話をしよう」 少しだけ気になる言い方をする浅葱を見る。 ーー話? 「そうだよ。だから、部屋へ行こう。ここではゆっくり出来ないから。・・・十六夜」 「・・・はい」 随分と低い声が聞こえて来た。 「何を拗ねている」 「当たり前じゃないですか。ご自分だけコトハちゃんと話して、ズルいです。僕も話がしたい」 「すればいいだろう」 「言葉が分からないのを知っていて、そんな意地の悪いことを言うんですね?・・・嫌味ですね?対抗しますよ」 「しなくてよろしい。どうせするのなら、修行をするんだね。そうすれば、コトハとも会話が出来るし、自分の能力だって上がるだろう?」 浅葱は苦笑混じりにそう言った。
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