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「得手不得手と言う言葉をご存知ですか?」 「さあな」 肩を竦めて、十六夜の手を取る。その瞬間、目の前の景色がブレたような気がした。思わずコトハはぎゅっと目を閉じた。 そっとフカフカの座布団の上に降ろされた。恐る恐る目を開ければ、コトハの前に浅葱が座っていた。 コトハは連れて来られた部屋の中を見渡す。クンクンと匂いを嗅ぎ、耳をそばだてて危険がないか気配を探った。 畳敷きの部屋はそれ程広くもないし、狭くもない。物は殆どなくて、座布団が3枚ポツンと置かれているだけだ。開け放たれた障子の向こうは、真っ白い雪に覆われた庭が見渡せた。 「十六夜、コトハにミルクを」 「受け賜わりました」 頭を下げると、十六夜は部屋を出て行った。 コトハは庭先から浅葱に目を向ける。改めて見る浅葱は、いつの間にか金色に光っていた髪が薄茶色に変化し、耳も尻尾もなくなっていた。 ほっそりとした輪郭と尖った顎。通った鼻筋に、少し大きめの口。 切れ長の鋭い目は細められ、薄い唇は口角が上がり、微かに笑みを湛えていた。 綺麗な人だと思った。人の美醜は良く分からないけども、きっと巷で良く聞くイケメンなんだろうなと、浅葱を見ながらコトハは思っていた。 「寒くはないかい?」 ーー大丈夫。 冷たく澄んだ空気が庭から流れ込んで来てはいるが、コトハは寒さを感じなかった。 身体を包む毛は暖かいけれど、寒さを感じないでいられる程は暖かくはないのに。ほんの少し不思議に思い、首を捻った。 ーーどうして寒さを感じないんだろう? 「お腹が空いただろう。もう直ぐしたら十六夜がミルクを持ってくるからね」 浅葱はコトハの疑問には触れず、そう言葉を掛けた。 ーーありがとう。 「ミルクを飲み終わったら、そのことも含めて話をしよう」 その言葉に、コトハは素直に頷いた。
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