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「完全に命の火が消えてしまっていたら、例え妖狐の血が万病に効く薬になろうとも、助けることは不可能だった。・・・でも、まだ微かにでも息があったから、コトハの灯し火を消さずにすんだ」 コトハの頭の中に、あの時の状況が思い浮かんだ。空から降り続く真っ白い雪が、容赦なくコトハの体温を奪っていった。身動きが取れず、蹲ることしかすべはなく、虚ろになる意識の中で確かに死を覚悟した。 ーーありがとうございます。 礼を述べるコトハに「話はまだ終わってないよ。全て聞いてから、礼なり、文句なりを言いなさい」と浅葱が告げる。 ーー文句? 文句なんてあろう筈が無かった。命を助けてもらったのだ。感謝の気持ちしかない。 「妖狐の血をコトハに入れた。そのことが、今コトハにどういう影響を与えているか分かるかい?」 コトハはキョトンと浅葱を見返したあと、被りを振って分からないと答えた。 「妖の血がコトハの中に入り、コトハはただの猫ではなくなったのだよ」 その言葉にコトハは大きく目を見開いた。クリンと頭を捻り尻尾を振って目の前に翳す。 じっと己れの尻尾を見つめ、その本数を確認した。 突飛な行動をするコトハに、浅葱は驚いた顔をする。でも、真剣な面持ちで尻尾を食い入るように見つめるコトハに、フッと口角が上がった。 ーー尻尾は、一本のままだよ? 「・・・そうだね、私にもそう見えるよ」 笑いを含んだ声音で答えた。
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