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「主様」 縁側でぼんやりと庭を眺めていた浅葱は、少し強張った声を出し、名を呼ぶ従者に顔を向けた。 子供の姿をした男の名前は十六夜。出会ってから二百年近くは経つだろうか。 最初に出会った時は浅葱よりは低いが、それでも身体つきや顔立ちは大人の男のものだった。 世の中に絶望し、禍つ神にその身を落としかけていた十六夜を使役したのは、己れと重なる部分が多かったからかもしれない。 「どうした」 徳利から透明な液体を猪口に流し込む。グイッと煽れば、焼け付くような熱が喉を通り胃に流れ込むのを感じる。喉越しは滑らかで、飲んだあとはピリッとした辛さが後を引く。この感覚が堪らない。 これで美味いツマミでもあれば最高なんだがと、傍に立ち尽くす十六夜に、目で訴えてみる。 「太りますよ」 容赦のない言葉に息を飲んだ。気にしているのに、可愛くない奴だ。 「最近、お腹の回りがたるんで来たんじゃないですか?」 「気のせいじゃないかな?こう見えて腹筋は割れてるからね」 「・・・へぇ?」 疑い深そうな視線が腹へと注がれる。浅葱はムッとしたように可愛げのない従者を睨み付けた。 「その目は信じていないな?・・・よし、今すぐ証明して上げよう」 Tシャツの裾を捲りあげようとする浅葱を、十六夜がイヤそうな顔で制した。 「結構です。腹が割れていようが、ポヨンとたるんでいようが、僕にはどうでもいいことですから」 紡がれる毒に侵されそうで、浅葱はクラクラと目眩のする頭を抑えた。 どこで教育を間違えたのか、この従者は主を主とも思わぬ発言ばかりする。 ポヨンてなんだと異を唱えようとする浅葱の声は「そんなことより」と詰め寄る十六夜によって遮られた。
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