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「高宮様がおいでです」
間髪入れずに語られた名前に眉を顰めた。心境としたら『またか』である。
週に何度も押しかける高宮は、犬神の化身だ。浅葱の友でもあり、仕事仲間でもあった。
が、しかし『またか』である。『いい加減にしてくれ』でもいいくらいだ。いや、いっそ『顔をみせるな』にしようか。
「んーー、面倒くさいな。十六夜、まだだと言っておいておくれ。態々、私が顔を出す必要もないだろ?」
「あの方の相手は疲れるからイヤです。主様を訪ねて来られたのですから、主様に相手を願います」
「その主様がイヤだと言っているのだから、気持ちを察して自ら犠牲になろうとは思わないのかな?」
「無理です」
「私も無理だ」
じっと睨み合って牽制し合う。
そんな2人の間を割るように「お前らなぁ」と、呆れた声が響いた。
浅葱は庭先に目を向け鬱陶しさを隠しもせずに文句を言った。
「勝手に入って来ないようにと、申し伝えていたと思うけど?何度言えば分かるのかねえ」
「アホ抜かせ。今の会話を聞く限り、じっと待ってたって誰も出て来ないだろ」
「心配しなくても大丈夫だよ。あと数分もあれば十六夜を説得して相手をさせていた。高宮は堪え性が無さ過ぎだよ」
「論点がズレてないか?俺はこれでも傷付いてるんだぞ?」
浅葱はチラリと高宮を横目で見た。
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