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本来の通路と何が違うかと言えば、この場所は浅葱が創り出したもので、浅葱が管理している点だろうか。そしておかしくはなっても、狂ったりはしないということだろうか。 狭間の通路は飲み込んだ者を、気まぐれを起こし吐き出すことがあった。 通路から人の世に吐き出された妖は、毒に侵されていくように、徐々に狂気を発症する。理性を失くし、本能の赴くまま血を求め、殺戮を繰り返す彼らは、人にとって恐怖の対象にしかならない。 そんな彼らを始末するのが、浅葱の仕事だ。 ーー通路が意思を持つかのように、主である浅葱を攻撃し始める。纏わり付き侵入を阻む。キンと耳鳴りが響き、クラリと視界が歪んだ。 不快感に耳をピクリと動かし、眉を顰める。浅葱は鬱陶し気に尻尾を振り、纏わり付いてくるそれを振り払った。 浅葱の身体から放たれている光が一段と強くなる。辺りを見渡せば、何もない空間に一箇所、光を帯びた場所があった。 その光を目印に進んで行けば、扉が現れた。光はその扉から放たれていた。 浅葱は躊躇することなく扉を開いた。 途端に歪んだ視界が元に戻る。中は真っ黒な部屋。真ん中には肌触りの良い上掛けの中で、ふわふわとした生き物が眠っていた。 その体が薄っすらとした光に包まれている。浅葱の纏う光と同じ早さで点滅を繰り返していた。 じっと見つめる浅葱の前で、それは微かに身動いだ。ピクピクと瞼を震わせたのだ。 口角を上げ浅葱は笑みを浮かべると、ゆっくり時間をかけて目を閉じる。同じ速度で瞼を開けば、そこは浅葱の自室だ。 浅葱の身体を覆っていた光が収まり、しゅるしゅると尻尾と耳が消えていった。 ふぅーと安堵にも似た溜め息が零れ落ちた。 「・・・これから忙しくなるな」 呟く顔には優しい笑みが浮かんでいた。
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