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「お引き取り下さい」
十六夜は、目の前に立つ犬神に向かい高圧的に言い放つ。やっぱり、塩を撒くべきだったんだと、心底悔やんだ。
「・・・浅葱は」
「篭っておいでです」
「どこに」
「自室です」
「・・・・・・呼べよ」
高宮は、じとりと十六夜に視線を向けた。
「何人たりとも邪魔をさせるなとの、お達しです。コトハはまだ目覚めておりません。高宮様が気になっている事柄は、これで解決されましたよね?どうぞお引き取り願います」
「おまっ・・・俺はこれでも神籍に名を連ねているんだぞ?敬うことを知れ」
「関係ありません。僕に取って敬うべきは主様のみです」
「その主様をも敬ってるようには見えないがな」
「心の眼で見ればちゃんと分かる筈です」
「・・・目で見ても分かるようにしろよ」
十六夜の言葉に高宮は苦笑を零した。
「私も色々と忙しいのです。そうそう高宮様のお相手をしている暇はありません。どうぞお引き取りを。そして、出来るなら忘れ去って頂けませんかね」
「嫌い過ぎだ。もう少しオブラートに包め」
「高宮様以外の方には、それなりに」
高宮は呆れた顔を向けると、わざとらしく溜め息を吐き出した。
「・・・それなりにねぇ。まぁ、いい。暫くは大人しくしておくか。浅葱に伝えろ。約束は守れと。・・・じゃあな」
手を振り帰って行く後ろ姿を見送り、今度は十六夜が大きく息を吐き出す。
忙しいのは嘘ではない。若干、刺々しくはなってしまったが、間も無く目覚めるコトハのため、十六夜も準備に大わらわなのだ。
悠長に相手などしてられないと言うのが本音だ。
『まもなくコトハが目覚める』
そう浅葱に告げられたのは3日前。
浅葱はその日からずっと部屋に篭っている。何をしているのかは分からない。『近づくな』その言い付けを守り、ずっと放置状態だった。
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