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浅葱は扉を開き、中へと入った。 そして、「みゃあ、みゃあ」と誰かを求めるように鳴き続ける真っ黒い、ふわふわとしたものの側に歩み寄る。 「コトハ」 自然と湧き上がる愛おしさに、口角が上がる。絶え間なく鳴き続けるその小きものを、そっと抱き上げた。 持って来たタオルに包み、口元に哺乳瓶の先を当てる。小さな口を開けてしゃぶり付き、コクコクと飲む様子を認めホッと息を吐いた。 このミルクは浅葱の血に妖力を練り込んで作られたものだ。浅葱の血によって妖へと生まれ変わったコトハには、このミルク以外の物で命を繋ぐことは出来ない。 ある程度大きくなって落ち着けば、赤ん坊に離乳食を与えるように、コトハにも他の食べ物を与えることが可能になるが、それまではこのミルクがコトハの唯一の食事になる。 暫く眺めていると、コトハは飲みながらうつらうつらとし始めた。 フフと笑い、哺乳瓶をコトハから離し浅葱は目を閉じた。 ふわっと空気が揺れる。浅葱の体が眩ゆいほどの光に包まれた。薄茶色の髪が金色に輝くと、その毛が全身を覆っていく。身体は骨組みを変え、手が前脚に、足は後脚へと変化する。顔が鼻の突き出た獣の顔へと面変わりすれば、頭の上に三角の耳がピョコンと飛び出した。 着ていた服が消滅し、腰からは九つに分かれた尻尾が生えてくる。 部屋の中一杯に放たれた光が収縮されたあとには、金色の大きな狐が佇んでいた。コトハを潰さないようにそっと包み込むと、ペロペロとその体を舐め始めた。
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