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コトハの体は妖に変化していた。小さな体の先にある尻尾が、二股に分かれている。 コトハの中に流れる妖力も、思ったより強かった。 猫の血と狐の血が、コトハの身体の中を混じり合うように流れているのを感じた。 (この分なら、人への変化も早いだろう) そこに居るだけで癒やされる存在に、心の中が暖かくなる。心に凝り固まった痼のようなものが溶けてなくなり、代わりに愛おしさが満たして行く。 沸き起こる感情は父性だろうか。激しく庇護欲を掻き立てられた。 遠い昔に一度だけ、浅葱はその血を使い人を妖に変えたことがあった。ただ、助けたかった。愛する者を守りたかった。 そして、結局守り切れずに死なせてしまった。 愛した者も、大切な仲間も、全て奪われてしまった。浅葱は呪詛の言葉を吐き、恨みに凝り固まったまま村一つを消滅させた。女子供に至るまで皆殺しにしたのだ。 邪魔さえされなければ街一つ、国一つ消滅させたかもしれない。 あの日からずっと空虚だった。この場所で穏やかに過ごしていても、心が晴れることはなかった。 それでも十六夜を拾ってからは、孤独を感じることはなくなった。 (充分幸せだと思ってたんだがな) 浅葱はスヤスヤと眠るコトハを、いつまでも飽きることなく見つめ続けていた。
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