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夜中の3時。闇に覆われた空からは、ポツポツと雨粒が滴り落ちていた。微かな雨音だけが包み込む静寂を、激しく扉を叩く音と無作法者の大きな声が打ち破った。
ビクッと身体を震わせ、十六夜は何事かと布団から跳ね起きた。
ボッーとした頭の中に「十六夜、十六夜、開けろ!」と騒々しい声が響いて来た。
その声に舌打ちをした。苛々としながら髪をかき上げ「いい加減にしてくれ」と不満を口にした。
「十六夜、開けろ!開けないと壊すぞ」
気を鎮めるかのように息を吐き出すと、十六夜は上着を羽織り、玄関へと足を向けた。
「・・・おはようございます」
ガラガラと引き戸を開け、不機嫌さを隠さずに目の前にいる男を睨み付けた。
「よう・・・朝から不機嫌だな。どうした」
(どうした?どうしただと?)
自分の行いに全く悪びれた様子を見せない男を、怒りを通り越して呆れた顔で見上げた。
「機嫌悪そうだな」
「・・・誰の所為だとお思いですか?」
「どうせまた主様だろう」
(あんただよ)
突っ込む言葉は咄嗟に飲み込んだ。無作法者だとは言え、仮にも神だ。こちらも無作法をする訳には行かない。
十六夜は、睨み付けるくらいはいいだろうと、その目を更にキツくする。
「浅葱から連絡が入ってなぁ。朝方に来いって言われて来たんだが・・・何か問題でもあったのか?」
あくまで十六夜の不機嫌な様子は、自分には関係ないと言いたげに首を捻る。そんな高宮に本気の殺意を覚えながらも「どうぞ」と中へ促した。
「生憎と、おもてなしの用意を整える間もなく来られたので、何もございませんが、一先ずこちらでお休みなさって下さい」
「コトハは?」
十六夜の嫌味に気付かぬ振りで、高宮が質問を投げかける。
「・・・・・・まだです」
「ん?・・・だが、浅葱は朝から来いって言ったぞ?朝に来たら居るってことだろ。何でまだなんだよ」
十六夜は、ぎゅっと拳を握り締めた。
(相手は神だ。相手は神だ)
呪文のように唱えながらも必死になって耐えた。
「あの野郎嘘吐きやがったな。おい、奴はどこに居る。出て来ねぇつもりなら、こっちから出向いてやる」
その言葉に、十六夜のなけなしの理性が飛んだ。
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