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「噂ではそうだったぞ?俺もてっきりそうだと思っていた。だから特に気にしていたんだが」
「初耳です。そんな話は何も聞いていませんよ?」
もし仮にその話が本当ならば、何らかの話があっても良い筈だ。何も聞いていない十六夜は、戸惑うように高宮を見た。
「・・・聞いてねぇのか?」
「聞いていませんね」
「・・・そうか・・・まぁ、今、本人が居ないんだから確かめようはないよな」
「ですね」
ふーんと呟きながら、高宮は暫く思案する素振りを見せた。
「・・・じゃあ、こうしよう。俺が聞くよりもきっと十六夜が聞いた方が奴も素直に答えるだろう。頃合いを見計らい、噂の真偽を訪ねてくれ」
何がじゃあかは分からないが、とんでもない提案をされたような気がして、十六夜は目を丸くする。
「えっ」
「お前も気になるだろう?」
噂話を真に受けて、聞くことに躊躇いはあった。でも、気になるだろう?と問われれば気にはなる。
当然だろう。当然だけれども、釈然としない顔で高宮を見る。
「僕より・・・旧知の仲でもある高宮様がお訊ねになった方が、素直に話されるのではないですか?」
「お?いきなり丁寧な口調で牽制か?さっきまでの口調に今直ぐ戻せ。尻がムズムズして気持ち悪いだろう」
十六夜は何が変わったのか分からず首を捻る。
「僕はずっとこの話し方でしたよね?」
「イヤ違う。何だか畏まってるだろう?折角距離が縮まった気がして喜んでたのに、つまらないじゃねぇか」
「距離を縮めるつもりは毛頭ありませんが」
「辛辣振りは健在なんだな」
「直すつもりもありませんので」
「まぁ、媚び諂われるよりマシだがな。俺は嫌いじゃねぇぞ?」
そう言って口角を上げる。その時、鋭い犬歯が目に入り、改めて犬神だったっけと思った。
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