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「小さいですね」
コトハを見た十六夜が、ポツリと呟いた。ふわふわとした産毛に覆われたコトハの体長は15センチほどだ。産まれたての子猫のように、その体は小さかった。
「小さいな」
高宮がデレデレとした顔で、コトハを見つめる。
柔らかな布団の上で眠るコトハの周りに、三人は陣取るように座り込んでいた。
あの後も1度授乳した。起きてはミルクを飲み、また眠る。暫くはそのサイクルだろう。
ただ、妖の猫と普通の猫は成長が違う。今の状態も3日くらいで終わるだろうと、浅葱は予想を付けていた。そして、その頃には人型へと変化もするだろうと。
「こんなに小さいのに、尻尾はちゃんと二股に分かれているんですね」
「分かれているなぁ」
くりんと丸まった尻尾を不思議そうに十六夜は見つめる。
「本当に可愛いですね」
「可愛いな」
感嘆の吐息と共に、独り言のように呟く十六夜の言葉尻を、高宮が繰り返す。
さっきからずっとこの調子だ。
「眠っていますね」
「眠っているな」
「いつ目覚めるんですか?」
「いつ目覚めるんだ?」
十六夜は、コトハに夢中で気付いてはいない。
「・・・高宮」
呆れた声で呼び掛ける浅葱を、高宮はキョトンと見返す。その様子から、本人は無意識なのだろうと推察する。
「お前、面倒くさい」
「ひでっ」
「十六夜、私の朝餉はあるかい?」
高宮の抗議は無視して、十六夜を見る。
「はい。今直ぐ支度を」
言いながらも、名残惜しそうにチラリとコトハを見る。
「後でまた眺めれば良いだろう。お腹が空いた。用意を」
容赦なく言い付ける浅葱に「受け賜わりました」十六夜は軽く頭を下げて部屋を出て行った。
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