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「みゃあ」 話が落ち着いた頃、コトハが鳴き声を上げた。 「おっ?」 高宮が目を細めコトハに視線を向けた。コトハはふんふんと匂いを嗅ぎながら、一直線に浅葱へと向かって来る。 「みゃあ」 目覚めたばかりの時と比べると、格段に足取りはしっかりとしていたが、時折何もない所で躓く。それでも一生懸命に歩み寄ろうとする姿に癒される。 コトハは浅葱の前で立ち止まると、また「みゃあ」と鳴いた。 抱っこをせがまれている気持ちになりながら、浅葱は口元を緩め、コトハへと手を伸ばした。 だが、抱き上げようとする浅葱を阻止し、高宮がコトハを掻っ攫おうとした。 「おい」 浅葱が抗議の声を上げる。 「いいじゃねぇか、抱かせろよ」 ヤニ下がった顔で高宮は笑うと、ふわふわとした柔らかな毛に触れる。その手を動かし、そっと抱き上げようとした高宮に、コトハは俊敏な動きを見せた。 身を翻しスルリと手から抜けたと思ったら、高宮の手を、猫パンチで叩き落とした。もちろん威力はないのだが、高宮の気を削ぐことには成功する。 虚を衝かれたように目を瞬かせる2人の目の前で、四つ脚に力を入れ、腰を高く上げると、毛を逆立て「フー」と威嚇し始めた。二股に分かれた尻尾はピンと立ち上がり、その姿は凛々しい。 「・・・・・・嫌われた」 高宮は叩き落とされた自分の手と、威嚇を続けるコトハを見ながら呆然と呟く。 「な、何でだ?抱き上げようとしただけだぞ?」 半ば泣きそうになっている高宮に「犬だからじゃないか?」非情とも取れる言葉を告げた。 「犬じゃない。俺は狼だ」 「ん・・・だからだろ?」 浅葱は冷静に返すと、未だ威嚇を続けるコトハを抱き上げた。コトハは少しだけ抵抗する素振りを見せるが、浅葱だと分かると大人しくその身を任せた。
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