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「コトハ、俺は高宮だ。確かに狼だが、心根の優しい男なんだ。何も怖がることはない。安心しろ」
部屋の真ん中に陣取り、ぶつぶつと呟く高宮を目を眇め見やる。
「一杯遊んでやるし、何だってしてやるぞ?俺はお買い得な男なんだ」
だから好きになれと、切々と訴える高宮に苦笑した。
「・・・高宮」
呆れた声で名を呼べば、高宮はピクリと体を震わせた。ゆっくりと振り返り、戸口に立つ浅葱に目を向けた。
「何をしてるんだ?」
「・・・睡眠療法だ。俺は敵じゃないってことを分かって貰おうと思ってな」
「・・・暗示に掛けていたのか?」
「ばっ・・・違う。睡眠療法だ」
「・・・涙ぐましい努力だな。もしかして、毎日やってるのか?」
コトハが目覚めてから5日が過ぎた。高宮は相も変わらずコトハに威嚇されている。触ることはもちろん、近くに寄ることすらままならない。
そんな日々を打開したくて、高宮なりに必死なのだ。
「うるせぇ」
高宮は乱暴な口調で言い捨てる。若干拗ねたようにも取れる態度に、高宮の焦燥を感じ取った。
実際、焦れているのだろう。コトハと戯れる浅葱や十六夜を羨ましそうに眺めるさまは、哀れみさえ誘った。
「で、効果はあったのか?」
苦笑を浮かべ訊ねる浅葱を、高宮がギロリと睨み付ける。
その目が、分かってるくせに訊くんじゃねぇと雄弁に語ってくる。
先ほども手酷く足らわれていたのだ。意地の悪い問いをしたと自覚のある浅葱は誤魔化すように笑った。
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