2

10/30

40人が本棚に入れています
本棚に追加
/87ページ
「コトハ、俺は高宮だ。確かに狼だが、心根の優しい男なんだ。何も怖がることはない。安心しろ」 部屋の真ん中に陣取り、ぶつぶつと呟く高宮を目を眇め見やる。 「一杯遊んでやるし、何だってしてやるぞ?俺はお買い得な男なんだ」 だから好きになれと、切々と訴える高宮に苦笑した。 「・・・高宮」 呆れた声で名を呼べば、高宮はピクリと体を震わせた。ゆっくりと振り返り、戸口に立つ浅葱に目を向けた。 「何をしてるんだ?」 「・・・睡眠療法だ。俺は敵じゃないってことを分かって貰おうと思ってな」 「・・・暗示に掛けていたのか?」 「ばっ・・・違う。睡眠療法だ」 「・・・涙ぐましい努力だな。もしかして、毎日やってるのか?」 コトハが目覚めてから5日が過ぎた。高宮は相も変わらずコトハに威嚇されている。触ることはもちろん、近くに寄ることすらままならない。 そんな日々を打開したくて、高宮なりに必死なのだ。 「うるせぇ」 高宮は乱暴な口調で言い捨てる。若干拗ねたようにも取れる態度に、高宮の焦燥を感じ取った。 実際、焦れているのだろう。コトハと戯れる浅葱や十六夜を羨ましそうに眺めるさまは、哀れみさえ誘った。 「で、効果はあったのか?」 苦笑を浮かべ訊ねる浅葱を、高宮がギロリと睨み付ける。 その目が、分かってるくせに訊くんじゃねぇと雄弁に語ってくる。 先ほども手酷く足らわれていたのだ。意地の悪い問いをしたと自覚のある浅葱は誤魔化すように笑った。
/87ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加