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「・・・元は普通の猫だったからじゃねぇのか?」
「いや、それは大丈夫じゃないかな」
「三つ葉の時はどうだったんだ?」
「・・・・・・相変わらず無神経な男だな」
少し睨み付けるように浅葱は高宮を見た。三つ葉は遠い昔、浅葱が愛した女の名だ。その血を使い、死にゆく彼女に命を吹き込んだ。
結局、塵と化してしまったが。
「吹っ切れたから、コトハを助けたんじゃないのか?」
「・・・どうなんだろうな。私にも分からないよ」
眠るコトハを見つめる浅葱からは、感情の波は感じられない。怒っている訳でも、悲しんでいる訳でもない。
(やっぱり吹っ切れたんじゃないのか?)
高宮はそう思いはしたが、その事にまた触れるのは躊躇われた。
「みゃあ」
目の前で眠るコトハが身動ぎ鳴いた。目を覚ましたコトハへと高宮は視線を向ける。
高宮が見つめる先でブルリと身体を震わせ、コトハはフンフンと匂いを嗅ぐ。高宮を見上げるとツンと顔を逸らす。その余りな対応に、切なくなった。
コトハは浅葱の元に駆け寄ると「みゃあ」と鳴いた。
「おはよう、コトハ」
目尻を下げ、だらしない顔をした浅葱がコトハを抱き上げる。これからミルクの時間だろう。
「コトハ、俺は敵じゃない。お前の大好きな浅葱の友達でもあるんだ。もうちっと歩み寄りが必要じゃねぇか?そろそろ仲良くなってもいい頃合いだと思うぞ」
切実に訴える高宮を他所に、コトハはミルクをゴクゴクと飲み始めた。
「はぁっー」
高宮は溜め息を吐き出し項垂れた。
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