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「お気を付けてお帰り下さい」
今日も今日とてコトハにぞんざいに扱われ、肩を落とし項垂れる高宮に、十六夜はそう声を掛けた。
それ以外に言うべき言葉が見つからない。
「・・・俺の顔はそんなに怖いか?」
いつもは自信に溢れた精悍な顔立ちは、今にも泣きそうに歪められている。
高宮は、コトハの目覚めを今か今かと待ちかねていた。目覚めたら世話を焼くのだと楽しみにしていた。それが、触れることはもとより、近寄ることすら出来ないのだ。
意気消沈する姿に、十六夜は同情を禁じ得ない。
「・・・笑うと愛嬌があって可愛いって、良く言われるんだぞ」
誰に?とは聞かずとも想像が付いた。さぞかし妖艶で艶やかな女性達に引く手数多なのだろう。
「愛嬌があって可愛いかどうかは分かりかねますが、怖いと思ったことはありませんよ」
十六夜がさらりと流すと「そこは妬くところだ」と、高宮が拗ねた口調で言った。
「・・・はい?」
「僕というものがありながら、誰に可愛いなんて言われて喜んでいるんだって言って怒るところだ」
さっきまでしおしおと萎れていた高宮が、ジロリと十六夜を睨め付けた。
どこでどう話が変わった?憐れな程に落ち込んでいた高宮の変わりように、十六夜はガクリと脱力する。
「やり直しだ」
尊大に言い放つ高宮に、めんどくさいとボソリと呟き、高宮の身体を玄関口から押し出した。
「・・・ちょっ、十六夜、まっ、待て」
慌てる高宮の目の前で引き戸をピシャリと締め切る。
「お気を付けてお帰り下さい」
有無を言わせぬ口調で別れの挨拶を口にした。
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